† † † お知らせ † † †


 今まで御来訪頂いた皆さまに御報告がございます。

 管理人の都合により、誠に勝手ではありますがPhantom Ladの更新を停止させて頂きます。

 仕事時間が不規則なこと、そして今でも強く書きたいと思っているカイ主の世界観を文章で上手く表現できないことが要因としてあります。
 ラストまでの話の流れはあったのですが、私が遅筆なせいで脳内だけでどんどんストーリーが進んでいき、文章にする前に気持ちが落ち着いてしまう・・・という悪循環がずっと続いていました。
 二部はゲームED後の彼らをどうしても書きたくて始めましたが、上記の理由を含めて書けない事態に陥りまして、何話か書き溜めてはあったのですが中途半端すぎてお見せできる状態ではなく、結果、このような結論に達したというわけです。

 励ましやお叱りのメールをくださった方や陰ながら支えて下さった方には、本当に申し訳ない気持ちでいっぱいです。
 とはいえ、あんな半端な状態で放置しておくのは許されないことだと思い、勝手ながら今後の展開をダイジェスト版にさせて頂くことを決意いたしました。

 このページをスクロールして頂ければ、ダイジェスト版がございます。



 それでは、どうぞ。


















 Phantom Lad 2章 ダイジェスト版





 ソルファレナ奪還から七年後、再会を果たした王子(イリヤ)と元女王騎士のカイル。
 イリヤは粗野な態度と言葉づかいでラス・イーファンという偽名を使い、宿屋に住み込みで働いていたその理由は、この村で王族に対するテロ行為が行われようとしているとの情報を独自の調査で仕入れたからだった。
 カイルはサイアリーズのためイリヤに一緒に来てほしいと頼むが断られ、女王騎士時代から何かと自分が蔑ろにされてきたことも含め、不穏な動きを見せる彼への疑心から行動を監視することになる。
 テロを企てていると思われる首謀者を探すイリヤは、自分に好意を寄せるジークに何か手掛かりがあるのではと彼に近づき、ようやくテロ組織の中に潜入を果たしたのだった。



 ここより下は未公開の内容です。





 一方、そんなイリヤの言動を不審に思うカイルは、ある日森の奥深くでイリヤと年若い少女が親しそうに話し小屋に入っていく場面に遭遇し、少女が一人のときを狙い真相を聞きだそうとしたのだが、彼女の口は固く、ただ今はイリヤをそっとしておいて欲しいと頭を下げられてしまう。
 だがカイルもこのまま引き下がれるわけがなく、少女とイリヤの関係を恋人同士なのかと勘繰った上で、彼がこの村を離れられない理由は君のせいなのかと尋ねれば少女は申し訳なさそうに頷いた。
 サイアリーズと少女を天秤にかけるつもりはないが、肉親に会うことを拒絶している理由がそんな稚拙なことだったのかと怒りのままイリヤに問い質そうとした矢先、突如として一匹の魔物が村を襲いはじめた。


 魔物は反王党組織が王族を陥れるために用意したもので、普段は大人しい種族のはずの魔物は自分の仔を奪われた怒りで暴走して村を襲っていたのだ。
 それに気付いたイリヤが村から遠ざけようと囮になり森へと誘い込み、カイルもそれを追って森へ入ったその時、イリヤの放った黎明の紋章の光柱が天を貫いた。
 駆けつけた時にはイリヤが血塗れの剣(リオンの形見)を片手に、倒れた魔物の親子の傍らに立ち尽くしていた。
 村を救った余韻にでも浸っているのだろうと静かに近づいたカイルだったが、今にも泣きだしそうなほどに顔を歪めたイリヤが、「こんなふうに奪っていい命じゃなかったはずだ・・・」と悔しさとも悲しみともとれる震えた声で呟いたのを聞き、自分は彼の何を見ていたのかと悩み始める。
 弔いを済ませ村に帰ってきたイリヤを待っていたのは、彼の正体を村人に明かすどころか魔物の襲来も彼の仕業だと吹聴して回る反王党派集団と、そしてその中心にいる仕事仲間のリドこそが組織のリーダーだという事実に驚きを隠せない。
 リドは、イリヤが名前や生い立ちで嘘をついていたこと、彼のせいで一時、国の情勢が危ぶまれたことなど、不利になることを大声で話し始める。
 それどころか、生け贄となるはずだった少女を村人の前に突き出し、イリヤが助けたために山神の怒りに触れ、魔物が襲ってきたのだと告げた。
 それを信じた村人たちは怒り狂い、地面に蹲る少女に裏切り者、死んで償えなどと罵声を浴びせ、それだけでは怒りの治まらない一人が投げつけたその石は彼女を庇ったイリヤの頭部に直撃した。
 王族に怪我をさせた事実に凍りつく村人たちだったが、次の瞬間、それは驚愕に変わる。
 目の前には、地に膝をついて土下座をしているイリヤの姿があったからだ。
 イリヤはまず身分を偽って生活していたことを詫び、次に少女に非はなく、しかも噴火は二度と起きないから生け贄はもう必要ないことを告げた。
 それでも嘘だ信じられないと口々に叫ぶ村人たちにイリヤは、自分は責められるべき対象であることには違いないが、現女王のリムスレーアは信じてほしいと更に頭を下げた。
 そして王族として自分が今出来ることは様々な土地へ赴き、多くの民からの声を直接女王に届けることだと続けた。
 飛び交う罵声が少しずつ減っていく中、リドはそれらを聞いていた上で王族の言うことなど当てにならないと鼻で笑い、剣を振りかざした。
 運命に身を任せるしかないのかと少女を背に覚悟したイリヤだったが、何も起きないことに顔をあげて驚いたそこには、リドから剣を取り上げて殴り倒すジークがいた。
 地面に転がったまま怒りを露にするリドに、血を流してまでたった一人の少女を護ろうとする王族なんて今まで見たことがない、一度くらい信じてみるのもいいんじゃないか、と諭したジークは、失血でふらつくイリヤの身体を抱えるように立ちあがらせた。
 それを見ていた村人たちも次第に落ち着きを取り戻し、謝罪の意と共にイリヤを信じてみようと気持ちを改めたのだった。
 少しでも理解を得られたのだとホッとしたイリヤは、笑顔を浮かべたままジークの腕の中で意識を失った。
 ジークは後方で茫然とその光景を見ていたカイルにイリヤを預けると、蹲るリドと仲間を連れてその場を後にした。



 村を出て少女の家へ向かったカイルは、意識のないイリヤをベッドに寝かせて治療を施した。
 彼が眠っている間、カイルは泣いて謝り続ける少女を宥め賺し、ようやく泣きやんだ彼女の口からこれまでの経緯と真相を聞きだすことが出来た。
 イリヤがこの村に来たのは反王党組織の存在を知り、そこへ潜入してテロ行為を阻止しようとするためだったが、村に着く前に少女が魔物に襲われている現場に遭遇し、山神の使いと知らず倒したのだ。
 その後、自らを神と名乗る銀髪の男に捕らえられたイリヤは、山を噴火させない代わりに神の所有物となる契約を結ばされたのだという。
 カイルは納得がいかず、目を覚ましたイリヤに二人でなら神だって倒せるかもしれないと詰め寄れば、アレを倒すのは紋章の力を持ってもしても無理だと突っぱねられる。
 ならば契約自体を無効にさせる方法を探そうと言えば、契約を解除するにしても他者の命を差し出さねばならず、破棄しようものなら再びあの村に災いが起きるから駄目だとイリヤに淡々と告げられ、憤りが募る。
 すでに全てを諦めているかのような落ち着きぶりにカイルは構わず怒りをぶつけたが、ここでやるべきことはもう終わったのだし叔母上に会いに行こうと笑みを浮かべたイリヤに戸惑ってしまう。
 そこには、ラスと名乗っていた時の無愛想で口の悪い偽りの姿ではなく、もう見ることはないだろうと思っていた七年前のあの頃と変わらない心穏やかな王子がいたからだ。
 今の彼をこの場所から引き離すのはマズイのではないか、カイルの心に迷いが生じ始める。
 しかし本来の目的はサイアリーズの元へ連れていくことだったと思い直したカイルは、命以外は契約で縛られていないと説明するイリヤの言葉を一応は信じるも、言い知れない不安を拭い切れないまま連れていくことを決意した。
 村を離れる前日、世話になった人たちへ挨拶に行くと言って小屋を出て行ったイリヤの後を、カイルは気付かれぬように尾行した。
 宿屋の女主人や仕事仲間たちなど次々と別れの挨拶を済ませていく中、最後に立ち寄ったのはジークの家だった。
 イリヤは一人の王族として、そしてラスとして自分の想いと別れの言葉を伝えた。
 出会い方が違えばきっとジークを好きになっていたと告白したイリヤに、それまで黙って聞いていたジークは一夜でいいから一緒にいてほしいと強く抱きしめ、イリヤは彼の望むまま身体を委ねたのだった。
 翌朝、少女の家へ戻ったイリヤを不機嫌そうなカイルが無言で出迎え、居心地の悪い空気の中、二人はサイアリーズの元へ向かうため旅に出るのだった。



 山を二つほど超えた宿屋で寝支度を整えていたイリヤに、相変わらずの重苦しい雰囲気を断ち切るようにカイルが口を開いた。
 あの夜ジークと何をしていたのかという質問にイリヤが口篭もっているとベッドに押し倒され、言わないならアイツとしたことを今再現すると脅されてしまう。
 酔ってもないのにこんなことをするのはおかしいと複雑な表情を見せるイリヤに、カイルは自身の行動に疑問を感じながらも手を緩めることはしない。
 最初の内は答えるつもりはないしカイルには関係ないと突っぱねていたが、服を剥ぎ取られ身体中を弄られて次第に息が乱れ始めてきたことに耐えきれなくなったイリヤがあの夜は未遂だったと叫んで、ようやくカイルの責めは終わった。
 その日以降カイルの機嫌は幾分直ったようで、しかし事あるごとに身体に触れてくる彼に戸惑いを隠せないイリヤは、誰かの代わりにしているのなら止めてほしいと懇願する。
 しかし代わりにしているつもりはないと詰め寄られ、自分を憎んでいるのに何故だと悲痛に叫べば、今でもその感情は拭い去れないがそれだけじゃないと、制止の声も聞かず強引に身体を開かれてしまう。
 イリヤはろくな抵抗もしなかった自分の浅ましさを嫌悪すると同時に、こんな状況とはいえカイルが己の意思で自分を抱いていることにほんの少し幸せを噛みしめていたが、やはりその胸中には誰に対するものかもわからない罪悪感が渦巻いていた。


 その後イリヤとサイアリーズの再会は、カイルの想像とは違って華やかなものではなく、涙ぐむサイアリーズをイリヤが優しく抱きしめるという穏やかな雰囲気の中で実現した。
 ずっとここにいればいいと言うサイアリーズに対し、数日だけ滞在するつもりだと苦笑するイリヤに、カイルは複雑な心境を抱えていた。
 イリヤが旅立つ日が来たとき、はたして自分はどうするのか。
 イリヤを探し出してサイアリーズの元へ連れていけた時点で目的は達成され、あとはこのまま居候を決め込むつもりでいたからだ。
 これまでずっとサイアリーズ中心で世界が回っていたのだから、この先もそれ以外の選択肢はないと考えていた。
 しかしイリヤが昔のまま気遣いのある優しい心根の青年に育っていたことと、よほど相性が良いのか先日までに数え切れないほど身体を重ねていたのもあって今更手放せるかという葛藤に苛まれ、酷く心がざわついて仕方がない。
 その夜、サイアリーズが用意してくれた部屋はイリヤとカイルが同室だったが、カイルがイリヤに触れようとした瞬間、想い人であるサイアリーズが傍にいるのだからもうこの関係を続ける必要はないと優しく突き放され、茫然となるカイルを残してイリヤは部屋を後にした。
 外に出て庭園のベンチに座って夜空を眺めていれば、サイアリーズがイリヤを見つけ横に座った。
 イリヤの今の境遇や身体の心配をしてくれるサイアリーズにカイルの想いを伝え、少しは自分の幸せも考えてほしいと告げれば、彼女は困惑した表情で知っていると答えた。
 知っていたが応えるわけにはいかないと、今でも王族の規律に縛られたままのサイアリーズに、もう我慢をする必要はないしカイルを好きならちゃんと気持ちを伝えるべきだと背中を押す。
 翌朝、何事もなかったかのように振る舞うイリヤと寝不足気味のカイルは朝食後、スッキリした顔をしたサイアリーズの洗濯に付き合いつつ、冗談を交えながら昔話に花を咲かせていた。
 目の下のクマを笑われ不貞腐れているカイルに、イリヤはサイアリーズにちゃんと自分の想いを伝えるべきだし互いの気持ちは通じあってるはずだと告げ、洗濯物を干しているサイアリーズの元へ行くようにカイルを促した。
 照れながらサイアリーズの元へ向かうカイルの背を見つめていたイリヤだったが、気付かれないようそっと部屋の中へ戻り旅支度を整えると、予めこうなることを伝えていた初老の女中に別れを告げてその場から姿を消した。


 カイルとサイアリーズがそれを知ったのはそれからしばらく経った後で、サイアリーズにすぐ探しにいくよう言われたカイルだったが追いかけることはせず、これでよかったんだと自分に納得させた。
 しかしサイアリーズがようやく自分の恋人になり喜ばしいはずなのに、カイルの心はぽっかりと大きな穴があいてしまったかのように上手く感情が表せられなくなり、それは刻一刻と酷くなっていった。
 見かねたサイアリーズが再度イリヤを追いかけるように叱咤すれば、カイルは驚いた顔で、だがその言葉を待っていたとばかりに荷物を抱えて家を飛び出した。
 その夜、真っ暗な森の中で野宿を強いられていたイリヤは、突如暗闇から現れたカイルの姿に胸が熱くなると同時に、またサイアリーズの頼みで来たのかと怒りがこみ上げ、今すぐに帰れと叫ぶ。
 しかしイリヤの魂を元に戻すために自らの意思で来たと熱く語るカイルに毒気を抜かれ、仕方なく同行を許したイリヤは、カイルからリムスレーアが探しているとの情報を聞き城に戻る決意を固めた。



 七年ぶりに城に戻ってきたイリヤは、あの頃と何も変わらない光景に自然と顔が綻んだ。
 当初、リムスレーアは彼女なりの不器用な愛情を示しつつ無愛想に王座に腰かけていたが、一度は王族を捨てた負い目からか一民として恭しくこうべを垂れる兄の姿を見た瞬間、思わず駆け寄りイリヤに抱きついて涙を零した。
 逆にイリヤは、女王という重圧にこれまで耐え抜いて国の復興を指揮し続けてきたリムスレーアを強く抱きしめながら、謝罪と感謝の気持ちを繰り返し述べた。
 おかえり、ただいま、と兄妹の再会を果たしていたその頃、ゲオルグが城に滞在していることを知ったカイルは彼の元を訪れていた。
 イリヤが来ているのだから会いに行かなくてもいいのかと聞けば、ゲオルグは滞在中はいつでも会えるのだから今は兄妹の再会を優先させるべきだと答えたその素っ気無い態度に、カイルはイリヤが想い人に会いたいと思うのは当然だろうとイラつきながら詰め寄った。
 カイルがまだイリヤの想い人を自分だと勘違いしているのかと呆れ果てたゲオルグは、イリヤへの親心から彼に7年前の真実を話してしまう。
 酔っ払って前後不覚になった挙句、イリヤをサイアリーズと勘違いして襲ったのだから責任くらい感じろと叱責され愕然とするカイルだったが、イリヤがこれまで秘密にしていたことを掘り起こすことは許さないと釘を刺され、加えてイリヤが好きなのは本当に俺じゃなく別にいるという発言に、やりきれない罪悪感と奇妙な焦燥感がカイルの胸に渦巻いていた。
 城で数日間を過ごしたイリヤはこれまで旅の中で見聞きしてきた民の声をリムスレーアに伝え、これからの国の発展に生かしてほしいと今後も活動を続けることを約束して、浮かない表情のカイルと共に城を出た。


 向かったのは魔術師が住んでいると言われる孤島で、ゲオルグから聞いた話によると様々な呪いを解く方法を知っているらしい。
 魔術師はイリヤと二人だけなら話をすると言い、カイルは渋々外で待つことになった。
 そうして、イリヤの頭をまたしても悩ませることとなった魔術師の説明はこうだ。
 1.呪いならまだしも神と思しき者との契約を解除することは出来ない。
 2.しかし契約の半分をパートナーとなった相手に移すことで自身の負担を半減出来る。
 3.そうなるとパートナーは自分と同じ半人半妖のような苦しみを背負ってしまうことになる。
 悩み抜いた末、魔術師に口止めを依頼したイリヤは、外で心配して待っていたカイルに手立てはないようだと嘘をついた。
 カイルはまた自分を頼ってはくれないのかと苛立ちを露にしてみせたが、実は魔術師との会話を盗み聞きしていてイリヤが嘘をついていると知った上で彼自身も嘘をついていたのだ。
 話の内容からしてイリヤが誰に頼るつもりがないのは分かっていたし、真正面から向かっていけば心を閉ざしてしまうのをカイルは過去に何度も身を以て経験している。
 それに会話を知っていると正直に話したとして、はたして解決する術を自分が持っているかと言えばそうではないし、彼を安心させてやれるような言葉を掛けることも今はまだ出来ないからだ。
 自分がイリヤのために契約を半分背負うなど、とてもじゃないが軽々しく口に出せるものではない。
 しかし気丈に振る舞うイリヤを見ていると何故だか放っておけず、サイアリーズの元へ戻りたいと思う以上に今は彼の傍にいたいと強く願うようになっていた。
 それにゲオルグから聞いたイリヤが自分を避けるようになった七年前の真相や、サイアリーズと再会してから一度もイリヤに触れてないことも、カイルが彼をより意識する一因となっている気がした。
 彼女はいないのだし触れてもいいだろうと手を伸ばせば頑なに拒絶され、今では寝泊まりのときだけでなく歩いているときでさえ一定の距離を取らされているのだからたまったものではない。
 我慢しきれなくなったカイルが別の村での宿泊中に半ば襲う形でイリヤを押し倒したとき、あまりの拒絶ぶりにうっかり例の真相話を口走ってしまったことでイリヤの表情が見る見る青ざめていくのを、カイルは居た堪れない想いとは裏腹に気持ちが昂るのを感じていた。
 震える唇で何を聞いたのかと問うイリヤのその瞳に怯えを見つけ、カイルはつい悪戯心で”あなたが俺のことを好きだと聞かされた”とうそぶいてみれば、色を失くしたイリヤの顔から表情が抜け落ちて行った。
 笑えない冗談だったかと慌てて嘘だと伝えようとしたカイルを遮って、気持ち悪いだろう・・・とイリヤは静かに目を伏せ、そう告げられた言葉にカイルは頭が真っ白になる。
 動かなくなったカイルの腕をどけてベッドから降りたイリヤは、叶わない想いだと最初から分かっていた、もう忘れてくれ、と感情の籠もらない声で力なく呟いて部屋を後にした。
 イリヤが自分を好き。
 その事実にカイルはこれまでのことを思い返し、そして頭を抱えた。
 彼が今まで自分に対してとってきた辛辣な態度は、全て想いを隠そうとしたための偽装だったのか。
 そして思い出す。
 イリヤが姿を消した、あのときのことを。
 ”あなたには、失望しました”
 サイアリーズの部屋で、ありったけの憎しみを込めてイリヤに放った呪いの言葉は、今でも胸の奥に真っ黒なコールタールのようにこびりついている。
 もしあの時からイリヤが自分を想ってくれていたのだとしたら・・・、そう考えるだけで胸が張り裂けそうになる。
 思えばそれ以前から自分との間で何かあるたび、イリヤが辛そうに顔を背けたり黙り込んだりするのを、機嫌が悪いか自分が嫌われているからだろうと思っていたが、それらが全く逆の意味を持っていたのだとしたら・・・。
 カイルは自分がこれまで彼にしてきた仕打ちを恥じ、心の底から悔いた。
 あのとき、想いを告げることもできなかったサイアリーズの突然の死に、誰かを憎むことでしか自我を保てなかった未熟な自分を、イリヤは今の今までただ黙って受け止めてくれたのだ。
 あれだけのことをしておいて許されるわけがない、わかっていながらもカイルは急いでイリヤの後を追った。
 村はずれの湖畔に腰をおろし揺れる水面を見つめているイリヤに背後から声をかければその肩が小さく揺れ、明らかに逃げるそぶりを見せた彼の腕を掴んでその場に縫いとめると、カイルは今までにない真剣な顔で過去の非礼を詫びた。
 イリヤは目を見開いて驚いた様子だったが、次に眉根を顰めて「受け入れられないことを承知で好きになったのだから、謝られるのは筋違いだ」と、掴まれた腕をぞんざいに振りほどいた。
 でも・・・、と喰い下がろうとする言葉を遮ったイリヤは、・・・叔母上の家から消えたあの日、この想いにもけじめをつけていた・・・だからもうカイルが困ることは何もない、そう言って清々しいまでに真っ直ぐな瞳を湖面へと向けた彼の横顔を見つめていたカイルは、”自分への想いを諦めた”ことに対し、安堵よりも喪失感が心に広がっていくのを感じ取っていた。
 彼の目が自分を追うことはもう無いのかもしれない、カイルは胸の奥に疼く痛みの理由を考えないようにしていたが、とある村での夜、その心を大きく動かす光景が目に飛び込んでくる。
 酒場で食事をとっていた時のこと、少しの間席を離れていたカイルが戻ってくるとイリヤの姿はなく、カウンターに立つ彼を発見したその隣には見知らぬ男が楽しそうに笑いかけていた。
 イリヤは馴れ馴れしささえ感じられる男の接触に嫌がるそぶりを見せず、むしろそれなりの好感を抱いているようで同じように笑いながら受け応えをしている。
 その二人が、城を追われ反乱軍となった頃によく見かけたイリヤとゲオルグの仲睦まじい光景と重なった瞬間、激情にかられたカイルは人にぶつかるようにしてカウンターまで行くと驚いた様子のイリヤの腕を掴み、男にしか聞こえないよう顔を近づけて、この人は俺のモノだ、手を出すなら容赦はしない、と牽制してから酒場を後にした。
 引き摺られるように宿の一室に押し込まれ、ベッドに押し倒されたイリヤの身体を跨いで逃げ場を失くされたことに怒る間もなく、上着を脱いで上半身を晒したカイルの逞しい肢体に思わず目を逸らしてしまう。
 暴れるでもなく嫌そうに顔を背けるだけのイリヤに、もう俺のこと興味無くなりました?好きじゃない?、と熱っぽい声で囁いたカイルが眼下の細くて白い首筋に唇を這わせれば、その喉奥からは甘い吐息が漏れた。
 ・・・好きじゃ、ない・・・、精神的に追い詰めるような愛撫に息も絶え絶えになりながらもイリヤがぽつりとそう零せば、へぇ・・・と投げやりな返事をしたカイルの指先が更に淫靡に蠢いた。
 散々に嬲られ、嫌と言うほど喘がされ、だが一向に射精(い)かせてくれないせいか、まともな思考が消えかかりそうなイリヤの耳元で、あなたはまだ俺が好きなはずだ・・・現に、ほら・・・、と手のひらについた先走りを見せつけられて、より羞恥心を煽られる。
 こんなことされれば誰だって反応する!と反論するも、嫌なら逃げればいいのにと失笑され、その言葉通りに抵抗しようとした矢先に追い上げられて達してしまった。
 ぐったりした身体を労ることなく、投げ出された足を持ち上げて後蕾を解しだしたカイルの手際の良さに呆れると同時にやるせない想いが込み上げ、だが軋む心に反して再び中心が熱を持ち始める。
 乱れる吐息と甘い声を噛み殺しながら、目に涙を浮かべたイリヤが、また僕に実らない恋をしろと、そんな残酷なことを言うのか・・・、と批難すれば、あなたは俺だけを見ていればいい・・・俺だけに溺れていれば・・・、情欲のこもった言葉と共にカイルの猛ったモノが深く挿入される。
 イリヤは勝手なことばかり言う男に絆されそうになる自分を叱咤しつつも、下腹部を襲う痛みと圧迫感、そこに混じる甘い痺れに思考が濁っていくのを感じていた。
 揺さぶられるたび押し殺していた声が濡れた唇から零れ、絡んできた指に己の指を絡ませれば一体となっている感覚に陥り、もしかしたら愛されているんじゃないかという夢と現の狭間で名を呼んで口づけをせがめば、カイルの極上の笑みが眼前いっぱいに広がっていった。
 翌朝、目が覚めたイリヤは幸せそうに眠る男の腕から抜け出して浴室で身体を清めていたところ、様々なモノが落ちる音と共に浴室に転がり込んできたカイルに発見されるなり安心したように長息を吐かれ、その行為に戸惑ってしまう。
 全裸で濡れたままは困るとすぐに引き剥がして着衣すれば、背後からそのままでいいのにとふざけた言葉が呟かれ、苛立ちを露にしたイリヤが睨みつけるのも嬉しいらしいカイルは、気分良さげに部屋へと戻って行った。
 その後も過剰なスキンシップに気味が悪いと接触を拒んでいたが、ある時、少しの間待っていてほしいと村に残されることになったイリヤは、気が気じゃないまま十数日を一人過ごしていた。
 カイルが消えてから数日が経ったある日の夜、ロゼストでの一件以来、形を潜めていた銀髪の異形の者が姿を現したことで緊張が走ったが、頭に直接響いてきた”半身を見つけるとは・・・お前も結局はその身が可愛いのだな”という侮蔑を含んだ言葉に、胸がざわつくのを止められずにいた。
 その後、何事もなかったような顔で帰ってきたカイルを問い質せば、頭を覆いたくなるほどのとんでもない事実が明らかとなった。
 あなたの交わした契約を半分、俺に移してきました、そう言ってへらりと笑ったカイルの頬を思いきり殴りつけたイリヤは、今にも紋章を発動させんばかりの怒りを込めて、自分がどれだけ馬鹿なことをしたのか分かっているのか!・・・人であることを、捨てたんだぞ・・・っ、と叫び倒した。
 それならあなたも大馬鹿者じゃないですか、と事も無げに言うカイルに対し、僕のは望んでしたことだ、と返せば、俺もです、と再び笑顔で返された。
 人を馬鹿にしているとしか思えないその態度に、今すぐ戻って取り消してこい!、と叫んだものの、あなただって取り消せないのに俺が取り消せるわけないじゃないですか、と軽く切り返されて、もはや反論する気力も萎えたイリヤは疲れ果てた面持ちでその場にしゃがみ込んだ。
 カイルは大馬鹿だ・・・こんなことして、残された叔母上はどうするんだよ・・・、両手で顔を覆って苦悩するイリヤの肩を抱いて、あの人を幸せにできるのは、残念ながら俺じゃなかったってことです、と静かに告げたカイルの言葉には確かな重みがあった。
 溢れ出る涙で頬を濡らしたイリヤが見上げれば、俺が望んで決めたことです・・・王子になんと言われようとも曲げるつもりはありませんよ、と困ったように眉を下げ、しかし碧に輝く双眸は真っ直ぐに愛しい者だけを見つめていた。
 ”愛”がそこに存在しているのかはまだ分からない。
 ただ今は、この腕に強く抱きしめられていることを素直に心地良いと感じられる、それだけがイリヤの心を満たしていた。



 この先、何十年、何百年先と、見目麗しい青年二人が様々な地で目撃されるのだが、それはまた別の話・・・。





 2章・完










 というわけで、2章はこんな形で終わるのでした。ダイジェスト後半で気分が高まっちゃって、ダイジェストじゃなくて普通に物語り進めている自分がいて、書こうと思えばかけるんじゃん・・・と情けなくなってしまいました。なので、前半は冷静に、後半は思うままの書きなぐり、と文章の書き方が少し違います。
 3章はたぶん”呪い解除迷走編”なのでしょう。内容を全く考えていませんが、半人半妖とはいえずっと生き続けるわけにもいきませんからね。でもきっとこの話はこれ以上続かないと思われます。頭パンパンで続けられない・・・。
 ともあれ、嫉妬深くて独占欲の強いカイルを出せて(こんな辺鄙な所で)本当に良かったです。これが書きたくてずっと続けてまいりましたが、途中で挫折して、皆様にご迷惑をおかけしてばかりで、脇道ばかり走って、恥ずかしげもなく厨二病設定で、それでもここまでついてきて下さった方々に本当に本当に感謝の気持ちでいっぱいです!

 カイ主は自分が思っている以上にハマっていることが驚きで、こんなにスパンを空けているにもかかわらず、書きたい意欲がどんどん湧いてくるんですよね。
 特にブラッキーなカイル様を・・・、稀におどろおどろしいカイルさんを・・・、究極は好きなのか憎いのか分からないけど王子が傍にいないとイライラしちゃう面倒くさいカイル(もはや呼び捨て必至)など。
 王子が泣いて泣いて泣き喚いて、最後には赦しを請うくらいまで虐め倒しちゃえばいいと思います。幸せになるのはその後で。もうお互いの姿が見えないだけで喪失感味わっちゃうくらいに、依存しあえばいいんですよ。2章の最後はそうなりました。いちおう目標達成です。
 ただカイルから”愛”の一文字を聞かされてないので、イリヤはこの先ずっと不安だとか・・・そんなかわいそうな状況の中でも、我が道突っ走りカイルは独占欲をむき出しにして「王子は俺のモノ、さわんじゃねぇ」宣言をひそかに実行していくわけですよね。酷い男です、まったく。自分で設定しておいてなんですが、いろんな意味でサイテーな男だと思います。
 ただ読んで頂く中で、口に出さなくてもカイルはイリヤを好きなんだなってのを少しでも感じ取ってもらえてたら嬉しいですね。とはいえ文章力・表現力がまあ壊滅的なので、感じ取るも何も”どういうこと?どういう意味?”になってそうですが・・・。今更ですよね。すみません・・・。

 とりあえずは、ダイジェスト版ではありましたが、彼らを一定のところまで導けたのは良かったとホッとしております。
 オリジナル設定ということで、公式・本家のほんわかな雰囲気をぶち壊してしまいましたが、ゲームのあの後のことは誰にも分かりませんし、個々で補完していければいいのかな、と・・・また厨二病再発。
 私個人はすでにイベント参加などの世界から足を洗っている身なのでそういった方々とのほぼ交流は無く、他者様の描かれるカイ主をそんなには知りませんが、たまにお邪魔すると幸せそうなカイ主がたくさんいて、ウチは本当にカオスだな・・・酷いもんだ・・・と嘆いたりもしますが、ウチはウチ、ヨソはヨソというわけで、こういうカイ主もいるということをたまに思い出していただければ幸いです。
 幸せなカイ主は私も大好きです。
 殺伐としたカイ主を書いてると、無性に癒されたくなるんですよね。でもなぜか甘いの書けないので、妄想します。ひたすら脳内でデレデレイチャイチャさせます。

 これからもカイ主から離れるつもりも逃げるつもりもありません。
 思いやりに溢れる素直で優しい王子とかどんだけ萌えるんですか!と悶えしながら、カイルにだけツンツンちょいデレ王子を今後も書き続けます。
 これでもかってくらい甘え倒すカイルって一家に一台!とか恥ずかしげもなく考えながら、王子を追い詰めることに命をかけるカイルを今後も書き続けます。
 それくらいに彼らへの”愛”は強いです。うわ、自分気持ち悪いです。

 ここまで読んで下さった方へ、本当にありがとうございました。

 この話はこれで一区切りつけましたが、今後もカイ主を増やし続けていくと思いますので、気長に待っていて下さるとうれしいです。

 それでは。

 2011.3 ACO



 あ、最後にラス・イーファンという名前ですが、ファレナス=falenasを崩して、las efan=ラス・イーファンとなりました。ラスは実際lassと書かないと読めない単語ですし、efanもそんな単語はありません。無理やり読ませたにすぎませんので、ご容赦ください。(ちなみにlassは少女、若い女性という意味です)